#01:少しずつ掻き消えるように
今日も僕は息をする
いつものように アラームの音で目が覚める
いつものように 気怠い体をひきずって 人混みを進む
いつものように 軽く挨拶を交わし 液晶画面に向かう
いつものように 相手のご機嫌を伺いながら 白い紙に判子を押す
いつものように 時間が過ぎて
いつものように 夕焼けで地面に貼り付いた影を引きずりながら
いつものように 玄関のドアをあける
いつものように 今日も息を 呼吸を繰り返す
呼吸をすればするほど
僕の身体から 君が消えて逝く気がして
それに気付いた時 僕は息を止めた
でもすぐに苦しくなって 急いで息を吸った
ごめんね 一緒に止められなくて
ごめんね 君を消してしまって
なんで人間の頭は記憶を薄くしてしまうのかな
それとも 僕が薄情なだけなのかな
ごめんね
せめて 君よ この瞬間だけは 鮮やかにいつまでも…
少しずつ掻き消えるように 君の息が─── 僕の息が─── 遠くなる
#02:掴んだのは、夢の端
夢を見た
でもそれは 夢なんかじゃなくて 形にしたかった
だから掴んでみたんだ
人には便利なことに2つの手があるから
片手でそれを掴んでみたんだ
そして 片手は君と手を繋いだままで
それでいいと思っていたんだ
なのに 気がついたら 君は隣にいなかったんだ
ずっと繋いでいたはずの手は
いつのまにか 縋りつく為に 両手でそれを掴んでいたらしい
もうどちらの手にも 君はいない
正直 これが良かったか悪かったかなんてわかんないんだ
ひどい奴だと思われてもいいなんて 綺麗事でもなんでもなくて
ただの薄情な奴なのかなって思ったり 一応する
でもきっと ずっと 答えなんてわからないだろうから
でもきっと ずっと 君の幸せなんて思えないだろうから
#03:忘れてしまいたくなんかない、だけど
いつのまにか 街で人混みに紛れながらも
君の面影を探さなくなった
視界の片隅に 居もしない君を追っていた日々が
もう遠い昔のようで
ふと思い出した日常に 溜息ひとつ
足元ばかり見ていた視線を少し上げると
きらきらと光るイルミネーションが眩しい季節
ひとりが淋しいなんて 今さらで
自問自答する自分に苦笑
白い光に照らされた 視界の片隅に見えた君の姿は
少し大人びて 幸せそうだったのは
きっと僕の見間違い
忘れてしまいたくないけど、忘れることも必要なんだと知った
寒い冬の日
#04:何もかも儚くなって
存在すら知らない君へ
君がここに いたとしたら
私はここに いなかったかもしれないね
君がここに いたとしたら
私はここに 一緒にいれたかもしれないね
君がここで 笑っていたら
私はここで 励まされたかもしれないね
君がここに いたとしたら
今とは違う世界になっていたかもしれないね
私がいない世界だったかもしれないね
それでもいいから 君の姿を見てみたかったよ
ただの好奇心と罵られてもいいから
君の姿を みたかった
もし君がここにいたとしたら
一緒に笑っていられたかな
だったら嬉しい
名も無い君に贈るささやかな餞
#05:君の声だけが、
君の声だけが、思い出せない。
薄れゆく この記憶さえ
正しいものかもわからない。
全ては幻かもしれない
きっと 幻にすぎない
僕の存在すら
思い描いた君の姿も
あの時の温もりも
あの時交わしたはずの言葉さえも
言葉を奏でた その声が
その声こそ 思い出せないのなら
きっと 幻にすぎないんだ
君の声を辿るために
僕は逝くよ 幻の夢の中に
僕と一緒に すてきな夢の続きを────